
膝蓋骨骨折の回復支援:理学療法士による段階的リハビリプログラム
2025年10月5日「膝蓋骨骨折と診断されて、今後の回復が不安…」「いつ頃から歩けるようになるの?」膝蓋骨(膝のお皿)の骨折は、日常生活に大きな影響を与える外傷の一つです。
理学療法士として多くの膝蓋骨骨折患者さんのリハビリテーションを担当してきた経験から、効果的な回復プログラムを紹介していきます。
基本的に膝蓋骨骨折の場合は膝を曲げて接地するアイウォークフリーは使用しないことが多いです。しかし時期と能力によっては、アイウォークフリーを活用できる可能性もあると思います。
1.膝蓋骨骨折の基礎理解

膝蓋骨の解剖学的特徴と機能
膝蓋骨の重要な役割:
• 大腿四頭筋の力を効率的に下腿に伝達
• 膝関節の安定性向上
• 膝関節前面の保護機能
• 歩行・階段昇降での重要な役割
血流供給の特徴:
• 中央部の血流が乏しい
• 骨癒合に時間を要する傾向
• 適切なリハビリが重要な理由
2.膝蓋骨骨折の分類と特徴
骨折パターンによる分類:
1. 横骨折(最も頻発)
• 全骨折の60-70%を占める
• 直接外力による受傷が多い
• 比較的安定した骨折型
2. 縦骨折
• 全骨折の15-20%
• 膝蓋骨の中央を縦に走る骨折線
• 関節面への影響を考慮
3. 粉砕骨折
• 全骨折の10-15%
• 高エネルギー外傷による
• 治療・リハビリが困難
4. 剥離骨折
• 筋腱付着部での小骨片剥離
• 比較的軽症なケースが多い
3.受傷機転と発生頻度
主な受傷パターン:
• 転倒時の膝直接打撲(40%)
• 交通外傷(25%)
• スポーツ外傷(20%)
• 階段での転倒(10%)
• その他の外傷(5%)
年齢・性別分布:
• 好発年齢:20-50歳代
• 男女比:やや男性に多い
• 高齢者では骨粗鬆症性骨折も増加
4.治療方針と回復過程
治療選択の基準
保存的治療の適応:
• 転位のない骨折(2mm未満)
• 関節面の段差が1mm未満
• 大腿四頭筋の伸展機能が保持
• 患者の全身状態が良好
手術的治療の適応:
• 転位のある骨折(2mm以上)
• 関節面の段差が1mm以上
• 大腿四頭筋の伸展機能障害
• 粉砕骨折や複雑骨折
手術方法の選択:
• 張力帯配線法(最も一般的)
• プレート固定法
• スクリュー固定法
• 部分切除術(高度粉砕例)
治療段階別の回復過程
Phase 1:急性期(受傷後0-2週)
• 炎症反応のコントロール
• 疼痛管理
• 腫脹軽減
• 安静保持
Phase 2:亜急性期(受傷後2-6週)
• 骨癒合の促進
• 関節拘縮の予防
• 筋萎縮の最小化
• 部分的な可動域訓練開始
Phase 3:回復期(受傷後6-12週)
• 段階的な荷重開始
• 積極的な可動域訓練
• 筋力回復訓練
• 日常生活動作の再習得
Phase 4:維持期(受傷後3-6ヶ月)
• 完全荷重の実現
• スポーツ復帰準備
• 機能的動作の向上
• 長期的な健康管理
5.膝蓋骨骨折特有のリハビリテーション課題
関節可動域制限の問題
屈曲制限の要因:
• 手術侵襲による癒着
• 長期固定による拘縮
• 疼痛による防御性収縮
• 腫脹による機械的制限
伸展制限の要因:
• 大腿四頭筋の筋力低下
• 膝蓋骨の可動性低下
• 関節包の拘縮
• 神経筋協調性の障害
筋力低下の特徴
大腿四頭筋萎縮:
• 受傷後1週で10-15%の筋力低下
• 固定期間中の進行性萎縮
• 内側広筋の選択的萎縮
• 筋出力パターンの変化
下肢全体への影響:
• ハムストリングスの短縮
• 下腿三頭筋の萎縮
• 股関節周囲筋の代償的過活動
• バランス機能の低下
6.歩行パターンの異常
典型的な歩行異常:
• 膝折れ歩行(knee buckling)
• 側方動揺の増加
• 歩幅の短縮
• 歩行速度の低下
• エネルギー消費量の増加
7.アイウォークフリーを活用したリハビリ戦略
膝蓋骨骨折でのアイウォークフリー適応

適応条件:
• 膝関節の90度屈曲可能
• 膝を曲げ荷重しても痛みがない
• 部分荷重が可能、痛みがない
• 患者の活動性維持が重要
• 従来の歩行補助具では不十分
• 社会復帰を急ぐケース
• 対側下肢に問題がない
使用可能時期の判定:
• 急性期後(腫脹軽減後)
• 医師の荷重許可後
• 疼痛が管理できている状態
アイウォークフリー使用の利点
機能的利点:
• 上肢への負担軽減
• 自然に近い歩行パターン
• 階段昇降が可能
• 両手動作が自由
リハビリテーション効果:
• 健側下肢の機能維持
• 全身体力の保持
• 心肺機能の維持
• バランス感覚の保持
• 協調性の維持
心理社会的効果:
• 活動性の維持による自信回復
• 社会参加の継続
• 職場復帰の促進
• 家族への依存度軽減
• 生活の質(QOL)向上
デメリット
• 痛みの増悪
• 骨折部への悪影響
アイウォークフリー活用プログラム:
1. 屋外歩行拡大
• 近隣での歩行練習
• 不整地での歩行適応
• 階段昇降の習得
• 公共交通機関利用
2. 職場・学校復帰準備
• 通勤・通学路の確認
• 職場環境での動作練習
• 長時間使用への適応
• 同僚・同級生への説明準備
3. ADL動作の拡大(継続)
• 家事動作の段階的拡大
• 買い物・外出活動
• 趣味活動の再開
• 運転動作の評価(健側での操作)
理学療法プログラム:
1. 関節可動域訓練
• 膝関節屈曲:0-90度を目標
• 膝関節伸展:完全伸展を目標
• 膝蓋骨可動性改善
• 足関節可動域維持
2. 筋力強化訓練
• 大腿四頭筋等尺性収縮
• ハムストリングス強化
• 股関節周囲筋強化
• 体幹筋力向上
3. 機能的動作訓練
• 座位・立位の反復
• ベッド上での動作練習
• 移乗動作の習得
• バランス訓練
8.リハビリテーション成功のポイント
個別化プログラムの重要性
患者背景による調整:
• 年齢・性別による修正
• 職業・活動レベルの考慮
• 併存疾患の影響評価
• 社会的サポートの活用
骨折型による調整:
• 単純骨折:標準プログラム適用
• 粉砕骨折:より慎重な進行
• 関節面損傷:可動域訓練重視
• 手術例:侵襲度に応じた修正
合併症の予防と対策
主要な合併症:
1. 関節拘縮
• 早期可動域訓練の重要性
• 疼痛管理の徹底
• 継続的なストレッチング
2. 筋萎縮・筋力低下
• 等尺性収縮の早期開始
• 電気刺激療法の併用
• 栄養管理の重視
3. 歩行異常
• 正常歩行パターンの再学習
• バランス訓練の充実
• 歩行分析による客観評価
4. 慢性疼痛
• 適切な疼痛管理
• 心理的サポート
• 生活指導の徹底
9.家族・介助者への指導
家族指導の重要項目:
• 安全な移動介助方法
• 日常生活での注意点
• 緊急時の対応方法
• リハビリへの協力方法
環境整備のポイント:
• 住環境のバリアフリー化
• 移動経路の安全確保
• 必要な福祉用具の準備
• 緊急連絡体制の確立
10.よくある質問と専門的回答
リハビリテーション期間について
Q: リハビリはどのくらいの期間必要ですか?
A: 骨折の程度や治療方法により異なりますが、一般的に3-6ヶ月程度です。単純骨折では3-4ヶ月、粉砕骨折では6ヶ月以上かかることもあります。
Q: スポーツ復帰はいつ頃可能ですか?
A: 基本的な日常生活動作が問題なく行える状態になってから、さらに2-3ヶ月のスポーツ特異的訓練が必要です。完全復帰まで6-12ヶ月を要することが一般的です。
アイウォークフリー使用について
Q: アイウォークフリーは使用できますか?
A: 医師が許可した場合で、回復期では使えるかもしれません。膝を伸ばして足を、接地するのが痛く、曲げて体重を乗せたほうが痛くないのであれば検討する価値はあります。あくまである程度回復してきてからと思ってください。
Q: 使用中に膝が痛くなった場合はどうすればいいですか?
A: 装着方法を再確認し、パッドの位置や圧迫具合を調整してください。改善しない場合は理学療法士や医師に相談してください。また骨折の影響で痛い場合もあります。その場合は使用を中止してください。
日常生活について
Q: 仕事復帰はいつ頃可能ですか?
A: デスクワークであれば受傷後2-4週で可能な場合が多いです。立ち仕事や重労働は医師の完全荷重許可後、通常8-12週後となります。
Q: 入浴はどのように行えばいいですか?
A: 固定具を装着している間は、防水カバーを使用するか、シャワーチェアに座って部分浴を行ってください。
アイウォークフリー購入・レンタル情報
適用期間による選択
購入推奨ケース:
• 使用期間が8週間以上見込まれる
• 活動性が高く頻繁な使用が予想
• 衛生面を重視する
• 将来の再使用可能性がある
レンタル推奨ケース:
• 使用期間が6週間未満
• 初回使用で適応が不明
• 経済的負担を軽減したい
• 保管場所に制約がある
Amazon公式ページで詳細仕様と価格を確認し、医師や理学療法士と相談の上、最適な選択をしてください。

まとめ:膝蓋骨骨折からの完全回復を目指して
膝蓋骨骨折は確かに重要な機能障害をもたらす外傷ですが、適切なリハビリテーションプログラムが重要です。その中でアイウォークフリーも活用できる可能性があります。
執筆者紹介
もっこすパパ |理学療法士・ケアマネジャー・公認心理師
理学療法士として15年以上、急性期から回復期、慢性期、在宅医療まで幅広いフィールドで患者支援に従事。医療・福祉の垣根を超えた支援を目指し、専門的な情報をわかりやすく発信している。